ファミリーレストランが公園をつくる?これからの教育と建築を考える 宮川 大 ✕ 岡野 道子 ✕ 会田 大也 鼎談
あらゆるモノが簡単に手に入り、結果しか見えないことが多い時代。教育シーンでは、画一的な優等生教育より、「個の創造性」にさらなる関心が寄せられています。
自分の頭で考えるチカラと、それを実行するチカラ。これらは、ますます多様化する社会のなかで、子どもたちが自分の人生をより愉しむために、必要なチカラではないでしょうか。これらのチカラを楽しみながら育む場をつくれないか。
そんな思いから「コドモたちとみんなでつくる公園プロジェクト」が始動しました。舞台は、スマイルズが運営するファミリーレストラン「100本のスプーン あざみ野ガーデンズ」です。
プロジェクトの発起人である株式会社スマイルズ・宮川 大(*1)に加え、ミュージアムエデュケーター・会田 大也氏(*2)と建築家・岡野 道子氏(*3)を招き、プロジェクトの真価を探る鼎談が行われました。
飲食、教育、建築のプロフェッショナルの視点で、本プロジェクトの次なるフェーズのヒントを探ります。
覚悟への共感が鍵、完成図は子どもたちの中に
ーー「公園プロジェクト」発足のきっかけについて教えてください。
<スマイルズ>宮川大(以下、宮川):「100本のスプーン あざみ野ガーデンズ」で店長をしていた頃、考えていたんです。ファミリーレストランを起点に、新しい何かを生み出せたらいいなぁと。
子どもたちは食事の時間が短いので、食事が終わったら遊び始めてしまうんですよね。店内にあるコドモの社交場と呼んでいるキッズスペースは子どもたちの人気スポットになっています。しかし、もっとファミレスに子どもたちの居場所を作れないかと思っていました。囲いで閉じ込めるのではなく、のびのびできる本当の居場所……
それで、レストラン横の空き地を「公園にできないか」と、ひらめいたんです。
<建築家 >岡野道子(以下、岡野):これまで様々なプロジェクトに携わってきましたが、「公園プロジェクト」はレストランの域を越えていますよね。コドモたちと一緒に公園の設計図から考え始めるというのは、運営側の覚悟も必要だったのではないかと思います。
宮川:いやぁ、本当に「100本のスプーンがやるなら」という共感に支えられています。
岡野:民間事業でありながら、もはや公共的です。ある種、社会実験のようでもあります。
宮川:そうですね。レストランだからやっちゃいけないことなんてないと思うんです。今回は「公園をつくる」という実際のプロジェクトを通して、子どもたちの未来を生きるために必要なチカラを育んだり、「その道のプロ」の力を借りながら、子どもたちに本物を知ってもらい、プロの仕事を近い距離感で体感してもらいたいと思っています。
<ミュージアムエデュケーター>会田大也(以下、会田):子どもから見たら僕がなんのプロなのかは解らないかもしれませんが(笑)引き続き、頑張ります。子どもとの会議は回を重ねるごとに、子どもたちの発言に重みが出てきましたね。
岡野:うんうん。毎回子どもたちのアイデアに驚きっぱなしですが、夢のようなアイデアをどうにかカタチにするのが私たちの役割。
会田:子どもたちから「この大人はちゃんと夢をカタチにしてくれるぞ」という信頼が伝わってきます。
宮川:第2回のワークショップを終えて改めて、100本のスプーンのコンセプトである、「子どもを子ども扱いしないレストラン」「はじめてにふれて、はじめてが楽しくなる」というメッセージを体現するプロジェクトだと実感しています。
ーー今回のプロジェクトはなぜ「考える、つくる、あそぶ」という三段階に分けたワークショップ形式の体験学習になったのですか?
宮川:プロジェクトを構想していたとき、会田さんに聞いた話が印象深かったです。
会田:ミーティングを重ねる中で、こんな話をしたんです。子どもは豊かなアイデアを発想したとしても、安全性や予算などの事情で実現できないことが多い。実際に「つくる」ところで大人が大人の事情で平面図をひいて、大人が考えたものを完成させてしまいます。
岡野:公共建築だとリスク管理が課題になって、子ども視点からはじまる設計は実現がすごく難しいんです。
会田:ええ。結局、子どもたちのアイデアが夢想しただけで終わってしまうところを何度も見てきました。
宮川:実は、当初大人だけで進めていた公園の設計があったのですが、大人の都合だけでつくってしまったら、子どもたちにとっては単なる楽しい公園になっていたかもしれません。
スマイルズでよく「思考と実行」と言うのですが、考える力とやってみる力はセットになるからこそ、できることが増えていきます。それは子どもたちでもきっと同じ。
だからこそ、考えるだけでなく、手間暇かけてつくって、遊んで、自分たちの居場所にしてもらえたら、という思いで「考える、つくる、あそぶ」3段階のワークショップを考えました。
岡野:公園の設計図から子どもたちと考えていくので、設計図が白紙の状態からスタートしています。子どもたちのアイデア次第でどんなものができてしまうのか、私も毎回ドキドキしています。この企画が通るところが、スマイルズらしさなのでしょうか?
宮川:企業として覚悟を決めるかどうか。公共建築でとれないリスクをどうとるか、事業会社だからできることは何か、100本のスプーンだからやりたいことは……何度も検討して「やってみようよ!」という意思決定に至りました。
会田:まったく完成が見えないことはリスクであり、可能性でもありますからね。
宮川:おっしゃる通りです。ワークショップ第2回を終えて言えるのは、子どもたちのクリエティビティを信じて本当によかった。
「個の創造性」の化学変化が生まれるチームとは
ーー公園プロジェクトにおけるクリエイティビティについて、どのように捉えていますか。
岡野:子どもたちが会話のなかで響き合って、次々とアイデアが变化していくのが興味深かったです。
人との関わりの中で、いかに自分のアイデアを次の次元にもっていけるか、その飛躍力がクリエイティビティ。
会田:「夢中」って、様々な制約から解き放たれたフロー状態、一番クリエイトしている状態です。子どもは夢中になって、自分を中心とした無限の創造性を拡張することができる。
一方で、大人はリソースの限界を見極めてそれらの適切な配置を考えることができる。つまり、どちらも立派なクリエイティビティなんですね。
会田:自分ができないことができるパートナーは、双方にとって貴重なコラボレーション相手です。だから子どもたちの意見を大切に拝聴するし、僕ら大人の意見も伝えていかなきゃいけない。
年齢や性別関係なく、得意な人とそうでない人、できる人とできない人、無限な組み合せのなかでいいものが生まれてくるのだと思います。
宮川:子どもは一人のパートナーで、お互い得意なことが違う。「大人/子ども」という区切りではなく、多様なメンバーがいるひとつのチームと考えるほうがしっくりきます。
ーー大人のクリエイティビティも、このプロジェクトには欠かせないものですね。
岡野:大人の仕事におけるクリエイティビティは、子どもの視点を持ちつつ、合理性を組み込んでいくこと。
無限の可能性がある方が面白いと思われるかもしれません。けれど、合理と自由をいったりきたりしながら、こどもの落書きが抽象絵画になって完成する瞬間に手応えを感じます。
宮川:自由と予算をいったりきたり。同じ予算なら、会田さんや岡野さんといったプロフェッショナルな仕事を間近で見てもらって、ものづくりの手間暇を体感して、公園で遊ぶ以上の価値をしっかり届けていかないと。改めて、身が引き締まる思いです。
未来に繋げる「夢中の原体験」
ーー公園プロジェクトから、子どもたちは何を得られると思いますか?
会田:この公園は僕たちがつくったぞ、守っていくぞ、という誇り。
宮川:子どもたちに自慢してほしいですね!最初は自分一人の視点で楽しいか、というアイデアだったのが、別のお友だちは楽しめるか、犬を連れた人はどうか、おばあちゃんは……というように、議論を重ねるごとに子どもたちの自分の意識が広がっていて、すごくいい変化だと感じました。
岡野:子どもたちが自分とみんなの場所をつくる責任を体感すること、それ自体が大きな価値になると思います。
会田:自分の庭につばを吐く人はいません。それは自分のものだという意識を持っているから。たとえば公共の場で、その場を大切に扱えないのは他人ごとだから。自分ごとの意識を持つことで「ちょっとでも良くしていこう」という作用が働くようになります。
その作用がキープできるようにコミュニティ運営もやっていけたらいいですね。一方で、やってあげすぎるとオーナーシップが手放されちゃう。
岡野:「誰かのため」だけだと、いいものにならない?
会田:そうですね。「ゴミが落ちていたら拾いましょう」という視点は大人側の価値観の押しつけになります。
宮川:むしろ、すごく大きなエゴかもしれません。
岡野:なるほど、ボランティアも同じですね。私の場合だと、学生をつれて被災地の建築プロジェクトに行ったときに実感します。
ボランティアだと思って参加するより、何か自分らしさを混ぜ合わせることで、クリエティビティが生まれるのがわかります。また、今の時代インターネットがあるので情報はいくらでも取れますが、フィジカルで体感しないと学べないことがあると思うんです。大学でもコピペで設計課題をつくる子がいますが、知のコピー&ペーストではなく、ちゃんと身体性をもって体験すること、0から考える力の大切さを感じていますね。
宮川:仕事も同じで、自分の経験やこれまでのバックグラウンドを含めて、自分なりの持ち味を出してはじめて自分の仕事になる。そうなると仕事はぐんと面白くなる。
公園プロジェクトには私たちの考える「仕事の面白さ」が詰まっていますし、この経験から「大人になったら建築家になりたい!」と、将来の夢や大人への憧れが生まれる子がいたら嬉しいなと思っています。
究極の教育とは?「遅い教育」というキーワードに込めたもの
ーー公園プロジェクトは、今後どうなっていくのでしょうか?
宮川:この公園は、子どもたちとずっと考えて、創り続けていきたいと思っています。サグラダファミリアのように、終わらない公園。今回、かんがえる篇は一旦終わりますが、また何度もかんがえる篇をはじめても良いと思っています。
岡野:公園をつくる過程で新たなアイデアが生まれたら、今回考えた設計図から変わっていってもいいと思うんですよね。
会田:最近、究極の教育って何だろう?と考えているんです。子どもたちがワクワクできること、得意なことを見つけられるよう、子どもたちの個性を伸ばすことなのではないかと思っていて。公園プロジェクトに関わる過程で浮かんできたのが「遅い教育」というキーワードでした。
会田:20世紀は大量生産で工場労働の時代。効率化を優先した教育で標準化した優等生を育てることが求められた。でも、これから先、人より早く学ぶことだけが価値ではないかもしれません。
ゆっくりでもいいから一つのプロジェクトを通して、自分の好きなこと、得意なことを見出していく才能も重要になってきています。教育から効率や速さを取り除くと見えてくる価値があるはずで、公園プロジェクトはまさにそんなプロジェクトだと思っています。
宮川:つくる篇では、公園を部分的にワークショップ化して子どもたちと一緒につくります。ベンチや畑づくりなどを、家具デザイナーや農家さんと一緒に進めるので、好きや得意の種になる新しい刺激があると思います。
また、公園の遊びのルールも子どもたちと一緒に考えていきたいです。こどもたちがどうしたら夢中になってくれるかを真剣に考えて、そのための環境づくりをしていきたい。それらをやり切れるかどうかが我々の手腕だと思っています。
ーー地域にとって「100本のスプーン」はどういう場所になっていくのでしょうか。
宮川:今回、あざみ野地域の方がたくさん申し込んでくださいました。親御さんたちが子どもたちを参加させてくれたのは、100本のスプーンへの信頼だと感じていて、ありがたい気持ちでいっぱいです。
「信頼関係があってこそ」できることを生み出していきたいし、それはきっと私たちが好きで、得意なことです。
宮川:もしかしたら、公園でなかったかもしれないし、その時どきで、何が生まれるか想像もつきません。
けれど、これからも街の人たち、子供たちに協力してもらって、ワクワクすることがあざみ野ではじまっている状態をつくっていきたいですね。
宮川:100本のスプーンは、2019年3月29日(金)に東京都現代美術館にも出店しますし、これから新しい動きが生まれていく予定です。公園だけでなく、100本のスプーンがプロデュースした保育園やキャンプ場、家族のためのホテルなども将来的には手掛けていきたいです。想いに共感し合える企業や自治体さんと協業して進められたらと思っています。
ーーありがとうございました。100本のスプーンらしさが凝縮された「公園プロジェクト」から、これからの教育、ひいては事業会社の役割についても考えさせられました。
3月10日(日)には子どもたちの夢が詰まった公園の計画がお披露目会が開催されます。当日は、「はじめての記者会見」をテーマに、コドモ建築家が大人さながら、公園の計画を発表します。大人では思いつかないような子どもたちの夢やクリエイティビティが沢山詰まった公園が生まれる予定です。ぜひ、お気軽にお越しいただけたらと思います。
公園計画のお披露目会
日時 | 2019 年 3 月 10 日(日) 16:00~17:50(15分前開場) |
---|---|
場所 | 100本のスプーン あざみ野ガーデンズ (神奈川県横浜市青葉区大場町704-60 あざみ野ガーデンズ内) |
内容 | ・コドモ建築家による公園づくり計画の発表 ・建築家へのインタビュー(3-4名のコドモ建築家のグループへのインタビューが可能です) ・つくる篇スタートのテープカット式典 など |
参加者 | コドモ建築家、保護者様、地域のみなさま、メディア・関係者様(合計100名程度) |
参加のお申込み | 以下申し込みフォームからお申込みをお願いします。 |
文・撮影:名和 実咲
*1:宮川 大 Dai Miyagawa
レストラン事業部 企画戦略室
1991年生まれ。大学在学中より、「東の食の会」などで食関係のインターンを経験。2014年4月、新卒で㈱スマイルズ入社。生活価値拡充研究所、クリエイティブ本部を経て、レストラン事業部に配属。2年間ほど100本のスプーンあざみ野ガーデンズにて勤務したのち、2018年より現職。
*2:会田 大也 Daiya Aida
ミュージアムエデュケーター
東京芸術大学大学院映像研究科映像メディア学専攻在学。 山口情報芸術センター[YCAM]にて2003年の開館より11年間、チーフエデュケーターとして教育普及を担当。メディアリテラシー教育、美術教育、地域プロジェクトの分野で、オリジナルのワークショップを開発。一連のオリジナルメディアワークショップにてキッズデザイン大賞受賞。担当した企画展示「コロガル公園シリーズ」は、文化庁メディア芸術祭、グッドデザイン賞などを受賞。その他、(株)三越伊勢丹やVIVITA株式会社、(株)Mistletoeなどといった企業とも協働し、教育プログラムの開発や運営に携わる。
*3:岡野 道子 Michiko Okano
建築家/芝浦工業大学特任准教授 / 岡野道子建築設計事務所代表
2005~2015年伊東豊雄建築設計事務所勤務。「宮城学院女子大学付属認定こども園森のこども園」の他、劇場や美術館、オフィス、火葬場、みんなの家など担当。2016年に岡野道子建築設計事務所を設立、主な作品は「檸檬ホテル」や「熊本益城町みんなの家」。2017年より芝浦工業大学建築学部特任准教授。現在、「甲佐地区災害公営住宅」、「甲佐町子育て支援住宅」等が建設中。大学では三重の漁村での地域の交流拠点づくりのプロジェクトも進行中。