絵本作家 荒井良二さん
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100本のスプーンでは4月1日より、絵本作家である荒井良二さんとのコラボレーションがはじまります。メニューブックの表紙は荒井良二さん描き下ろしの「塗り絵」にリニューアル!店内ではお店ごとに異なる絵の展示にもご注目。耳を傾ければ、みちのおくの芸術祭「山形ビエンナーレ」をきっかけに生まれた楽曲が流れてくることも。絵と色の世界を楽しんで、おいしい料理と一緒に五感を味わいつくしてくださいね。
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きっかけはステイホーム中のアートプロジェクト
荒井良二さんをリーダーに 4人のゲストクリエイターを迎えた『タビタビじゃあにぃず』は、ステイホーム中に自宅で子どもたちが楽しめるホームワーク(アートキット)を企画されました。それが、自宅のポストに届くアートキット『POST じゃあにぃ』です。
ロバが描かれた黄色い封筒で届くのは、大小さまざま、色とりどりの紙ものたち。家族や友達と描いて楽しむ、絵本のような、地図のような、ゲームのような、創造の旅へといざなうアイテムが詰まっています。
私たちはこれまで“はじめてに触れてはじめてが楽しみになる”をテーマに、ホンモノにふれて好きと発見のあるイベントを企画をしてきました。“はじめて”の体験は、コドモもオトナも心が躍るもの。100本のスプーンでも『POST じゃあにぃ』のワークショップをクリエイターと一緒に、お店でやってみようと企画が持ち上がりました。
(100本のスプーン TACHIKAWA)
しかし、店内でのイベント開催は今も難しい状況が続いています。それなら、と各テーブルのお客様が楽しめるようにメニューブックと各店舗の壁面、そして店内で流れる音楽にのせて『POST じゃあにぃ』のワクワク感をお届けしようとひらめきました。届ける先は自宅のポストではなく、それぞれのテーブルへ。メニューの塗り絵には生きものや食べもの、中には不思議な形のスプーンがずらり。
「塗り絵をやるのは苦手だった」と語る荒井良二さんは、ファミリーレストランに何を思い、感じ、描いてくださったのでしょうか。そして、食べることと絵本の共通点とは?
お話をききながら辿っていきましょう。ここからは荒井良二さんのインタビューをお届けします。
(写真左:アーティスト・絵本作家の荒井良二氏 写真右:株式会社スマイルズ代表取締役社長の遠山正道)
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縦横無尽な五感の世界へようこそ
――以前、塗り絵が苦手だと聞いていたので、今回メニューブックの絵を描いてくださって嬉しく思います。
荒井:塗り絵をやってもらう分には嬉しいんだよ。でも僕が子どもの頃は、塗り絵があんまり好きじゃなかった。というのも、空は青、木は緑みたいに、いわゆる固有色を塗っちゃうじゃないですか。子どもの頃から、そういう決められた絵があんまり好きじゃなかったんだ。それって「絵じゃないし」みたいな。
――まさに山がこんなカラフルでもいいわけで。
荒井:そうそう。なぜか子どもの頃からそう思ってた。塗り絵って本当は自由度が高くて、太陽をピンクにしたっていいわけで。いわゆるスプーンだったら全部シルバーあるいはグレーで塗らなきゃダメかと言うと、そんなことなくて。
荒井:僕だって描くときに最初から筆を持ってしまうと、お利口さんの自分が出てきてしまいます。学校みたいに、椅子・机・筆の3点セットがそろうと「はみ出すな、うまくやれ、失敗するな!」と脳から指令を出されるような気がして。だから椅子に座るから悪いんじゃないか、とか考えています。
――立って描いてみたり?
荒井:そうそう。これはほとんど立って描きました。塗り絵は一色でなくてもいいし、はみ出してもいい。「はみ出しちゃった」が「はみ出していいな!」と気づいた瞬間に一気に楽しくなりそう。
ーーレストランで塗り絵をする体験自体が日常からはみ出ているので、のびのびと楽しんでもらいたいです。
――いろんなスプーンを描くに至って、何に着想を得たのでしょうか?
荒井:スプーンを描いた画家の絵はずっと頭にありました。スプーンを描いた画家のジャン・ミシェル・フォロンというアーティストがいまして、スプーンの中にあるひとつの世界が入っているような大きな水彩画がすごく格好よくて、いつかスプーンの絵を描きたいなと思っていました。お店の名前が「100本のスプーン」だから、たくさん描いたら良いんじゃないかって。
ーーそうだったんですね。真ん中のロバもとても可愛らしいです。
荒井:絵本や作品でも、前作との繋がりをすこしだけ取り入れています。例えばロバは『山のヨーナ』や、『POSTじゃあにぃ』に登場しています。
(15年前に着想したという未完の絵本『山のヨーナ』は、山形ビエンナーレ2018の作品として立体空間に出展する他、オリジナルサウンドトラックも生まれた。)
ーーロバのまわりには不思議なスプーンがたくさん。食材のアルファベットがabc順ではなく、不規則に配置されていますね。
荒井:これまでのメニューブックも食材が英語表記になっていたので、そろえてみようかなと。とはいえ、アルファベットは大人向けの要素ですし、子どもにはPだろうがBだろうが関係ない。でもちょっと背伸びをするような体験になりそうだな、と。最初はアルファベットあり・なしどちらでもいいよ、と思っていたのですが、文字をいれた絵になったんですね。
――文字があっての作品だと感じましたし、文字が無いと遊び心がどこかへ消えてしまいそうで。100本のスプーンのコンセプトは、コドモがオトナに憧れて、オトナがコドモゴコロを思い出す。大人の中にコドモゴコロを呼び込めそうです。
荒井:きっと一緒に「うーん、何なんだろう?」って。あとスプーンは結構難しいですよ。
(あえてくぼみの線を描かずに、様々なものや形に見えるように描かれたスプーン。くぼみの影を入れてもらったスプーンと見比べると、ますます面白い形に見えてくる?)
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コドモもオトナも、世界に背伸びし続ける
ーー荒井さんはどのようなことを考えて絵本を作り上げていますか。
荒井:絵本にはよく2歳用とか対象年齢がありますが、僕は対象年齢に関係なく子どもたちに少し背伸びしてもらいたい。そもそも年齢だけでぴったりかどうか、わからないじゃないですか。3歳なら5歳ぐらい、5歳だったら7〜8歳ぐらいの背伸びができる仕掛けは作りたいなと。
ーー背伸びですか。私たちも少し似ていて、子どもを子ども扱いしないレストランでありたいと思っています。100本のスプーンでは子どもも大人と同じメニューで、ハーフサイズにして用意したり、プラスチックコップではなくあえてグラスで提供しています。家族とレストランに出かけるときの、背伸びする感覚が実はキラキラと心に刻まれるんじゃないかって。
(子ども用のメニューではなく、大人と同じものが食べたい。そんなお子様の気持ちを叶えるために、味やしつらえはそのままにハーフサイズのお料理があります。)
荒井:ああ、なるほどと思います。僕は全部の絵本が子どもにウケる、おもねるような商品ばかりになることには疑問を持っていて、そこに一石を投じたいなという気持ちを持っています。
――荒井さんの場合は子どもの絵本というより、作品なんだと思いました。被災地や紛争地のように見える絵もありますね。
荒井:そうですね。ただ、絵本という印刷物だからこそ遠くに旅立ってくれるのは大切なこと。高校生の頃から1点物をつくる作家にはならない、と決めていたから絵本や紙ものである必要はあった。どこかで社会との繋がりはすごく意識していたんですよ。
ーー現実社会への眼差しを強く感じます。
荒井:子どものおもちゃを作っているのではありませんから、譲れない部分は持っておかないと。だから僕にとって絵本は、子どものもので“も”ある、という認識。自分がやりたいことがブレないように、しっかり正確に自分のやりたいことに動かされるようにいること。あえて“子どもはこういう雰囲気を喜ぶだろうな”というものを排除することもあります。
――もういっそ、48歳からの絵本があってもいいのかもしれませんね。
荒井:あ、面白いね。0歳から100歳までの絵本があるなら、50歳からの絵本があっても面白いかも。
ーー子どもも大人も、ずっと背伸びし続けられそうです。きっと荒井さんの絵本には、そんな仕掛けが散りばめられているのですね。
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絵本の「おしまい」はスプーンですくうように
ーー100本のスプーンに来店された時はどんな印象をお持ちでしたか?
荒井:100本のスプーン、ネーミングからして好感度が抜群!描くのは難しいですけど、スプーンはすごく優しい存在です。
ーースプーンは優しい、ですか?
荒井:スプーンは絵本とちょっと似ていると思います。ほとんどの絵本は、主人公が悲しいことに巡り合っても必ず最後は救われる。悲しみも全てをすくい取ってくれるのが、やっぱり絵本なんだと思うんです。言葉遊びじゃないですけど、すくいあげるイメージがスプーンと結びつきますね。
ーーたとえばお母さんに怒られちゃって、でもお互いはやく仲直りしたい。食事を囲んでいるうちに温かい気持ちが取り戻せるような、小さな救いがあるかもしれません。
荒井:身近なお守りみたいなものだと思いますね。昔からそういうイメージはありました。僕みたいに考えなくても近いイメージを抱いているから、レストランの名前を聞いただけで行きたいと思う人は、たくさんいるんじゃないかな。
ーー嬉しい言葉をありがとうございます。荒井さんにとっての食卓は、どんな風景を思い出しますか。
荒井:スウェーデンなんか行くと、食事の時は朝でも必ずろうそくを灯しています。ろうそくと食器とスプーンとフォークが並んでいて、食事をみんなで囲む。優しい祈りがあって……そんな風景が浮かびます。
ーーきっと荒井さんが作品に打ち込んでいる時は、何かを救おうとする、祈りに似ているのだと感じました。
荒井:最後はあったかいスープか何かを一口飲んで、「おしまい」みたいな感覚が絵本にはあるんですよね。絵本を閉じながら、最後はあたたかくないといけなくて。
ーー私自身はスプーンを、お母さんが赤ちゃんに食べさせるような“与えてくれるもの”のイメージを持っていたので、お話を聞いてしっくりきました。
荒井:うん。スプーンには優しい感触があって、人生のなかでも付き合いが深いものなんだなって思うよ、みんな、どんな人でも。
ーーいろいろなスプーンの物語が広がって、ワクワクしました。今日は本当にありがとうございました!
■プロフィール
荒井良二/アーティスト
絵本作家
1956年山形県生まれ。『たいようオルガン』(偕成社)でJBBY賞を、『あさになったので まどをあけますよ』(偕成社)で産経児童出版文化賞・大賞を、『きょうはそらにまるいつき』(偕成社)で日本絵本賞大賞を受賞するほか、2005年には日本人として初めてアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞するなど国内外で高い評価を得る。また、NHK連続テレビ小説「純と愛」のオープニングイラストを担当、「みちのおくの芸術祭山形ビエンナーレ」芸術監督(2014~2018)など、その活動の幅を広げている。
■子どもとステイホームを楽しむアートキット『POSTじゃあにぃ』発売中
価格/4,950円(税込・送料込)
サイズ/A4封筒
対象年齢/6歳以上
ECサイト/tabitabi-journeys.com/
店舗販売/とんがりビル(山形)他一部店舗で、原画の展示と販売を開催
Instagram/www.instagram.com/tabitabijourneys/
■取材場所
100本のスプーンTACHIKAWA
住所:東京都立川市緑町3-1
電話番号:042-595-9680